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出た………

いや、そろそろかとは思っていたのですが、遂に来ました『一ヶ月間更新無し告知』(苦笑)。
だってネタが無いのですよ、ここ最近。日記なんてネタが無ければ書くことなんてありませんて。
ってなわけで、昔々のそのまた昔、とあるサイト様に押し付け送らせて頂いたブツを載っけてみます。

ある男女の一場面

「一つだけ、我侭を聞いて欲しい」
 男は女の紅い髪を一房手に取り、唇に寄せる。
 女は男の手から髪を取り戻す事はせず、好きにさせた。
「……我侭による」
 女は数秒沈黙し、伏せ気味の男の顔を真っ直ぐに見つめた。
「俺を待つな」
 男の濃い緑瞳と女の緑瞳が、その瞬間確かに一つに繋がった。
 女は瞳を反らす事無く、言葉を紡ぐ。
 まるで、宣誓するように。
「待つ気など無い。私は、全力で駆け続ける。だから、追いつけなくなる前に追いかけて来い」
 女の瞳はいつでも強い輝きを放つ。
 男は手に取ったままの髪に口付け、そっと唇の端で笑んだ。
「……了解。我が姫」


ある男女の一場面2

 女は抱き寄せる男の腕をさり気無く交わし、シーツの海から抜け出した。
 カーテンを通して差し込む陽の光が、女の白と褐色の中間色の肌の上を陰影を付けて踊る。
 男の視線に惜しげもなく裸身を晒しながら、昨夜男に脱がされた衣装の下に歩み寄り、衣擦れの音も密やかにぴったりとしたドレスを纏う。
 身体の線がはっきりと浮かびあがるその異国の衣服は、咲き誇る大輪の花の如き女に良く似合っていた。
「夜の薄明かりの下でも美しかったが、朝の光の中でも美しいな」
 目を細めて呟いた男に、女は振り返り艶【あで】やかに微笑む。
 女の笑みはいつでも色鮮やかな大輪の花を連想させる。

 その彩【いろ】で、その芳香で――――――誘う。
 他でもない己の為に。
 次代の命を繋ぐ為に。
 それこそが花の存在意義。

 花々の美しさは他人【ひと】の目を楽しませる為ではなく、己の望みの為なのだと、この女を見ていると実感する。
 この美しさは男の為ではない。真実、彼女の為だ。
 彼女が彼女の望みを叶える為。
 その為だけの、儚い夢幻。
「それでは殿下、私【わたくし】は失礼させて頂きます」
 女はしなやかに一礼し、踵を返した。
 結い上げた黒髪から零れた後れ毛が、項に絡み何とも艶【つや】やかで、翻ったドレスのスリットから覗いた肌も色っぽく、昨夜の香しくも艶【なまめ】かしい女の姿態と重なった。
 この女には朝の光よりも、夜の闇が似合う。
 夜闇を舞う蝶の美しさ。
 だか、本当の蝶は男で、彼女は蝶を捕える花。
 とびきり勘が良く、頭の回転も速い、言葉のやり取りだけでも楽しめた女。
 女の後姿を見るともなしに目で追う。
 扉の取っ手に手をかけたところで、女が今一度男を振り返った。
 紅い唇が弧を描き、碧い瞳が楽しげに煌いた。
「どうぞ、殿下のまだ蕾の紅蓮の華を大切になさって下さいませ」
 女は優雅に一礼すると、今度こそ扉の向こうに消えて行った。
 女が最後に投げて寄越した威力抜群の言葉の爆弾に、男は暫くシーツに突っ伏す。
 やがて裸の褐色の肩が小さく震え始め、押さえた笑い声が独りきりの室内に控えめに響いた。


 少女は数冊の本を抱え廊下を歩いていた。
 しかし、持ち方が悪かったのか本が一冊滑り落ちる。
 拾おうと慌てて屈んだ拍子に、残りの本まで細い腕から擦り抜け廊下に散らばってしまった。
「あっちゃー」
 少女は弾みで彼方此方に散った本を急いで拾い集めて行く。廊下に人気が無かったのは幸いだったかも知れない。
 半分ほど拾ったところで、屈んでいた少女の上に影が差した。
「はい、どうぞ」
 顔を上げると、異国の衣装を纏った黒髪の美しい女が此方に屈み込んでいて、向こうに散っていた数冊の本を差し出していた。
「あ、ありがとう」
 女はにっこり微笑むと、上体を屈め少女の額にふわりと唇を落とした。
「な、何だ!?」
 びっくりしてまた本を落としそうになった少女は、慌てて今度こそ落とさない様に確り抱え込む。
 女は少女に優しく微笑みかけた。
 声も無く見惚れるほど、美しい微笑。
「もうお会いする事もありませんが、お元気で。紅蓮の姫君」
 唖然とする少女を残し、女は廊下の向こうに歩いて行った。


「さっきそこの廊下で異国のドレスを着た綺麗な女性に会ったんだが、誰か知っているか?」
 少女は一緒に勉強している少年に気になっていた事を訊ねた。
 あの優しい瞳をした、光射す様に美しい女は誰なのだろう。
「異国の衣装……東の大国の姫君だな。昨日は兄上の生誕祭だったから、来賓として来ていたんだろう」
 少年は数瞬考え、直に思い至ったのか問いに答えた。
「へえ、何と言う国なんだ?」
「地図で調べろ。シザ=トゥールの向こうの国だ」
 少年はそれ以上は答える気が無いのか、あっさりと手元の本に視線を戻す。
 少女は後で地図を調べに行く事を決めた。
「また、会えるだろうか」
 少女の呟きに、少年は彼女を横目で見る。
 そして、視線を逸らした。
「もう会う事はないだろう。隣国に嫁ぐそうだからな」
「そうか」
 淡々とした少年の口調に、少女も感情のこもっていない相槌を返す。
「そうか……」
 少女は再度呟くと、窓から空を眺めた。
 一度だけ会った女の瞳は、澄んだ水の碧をしていた。
 水の碧は天【そら】の蒼を映したものだと言う。
 空を見る度、暫くあの優しい瞳を思い出しそうだった。


ある男女の一場面3

 少年は何も語らない。
 ただ少女を片時も手放さず、傍に置こうとする。

 少女は何も分からない。
 誰も何も教えてはくれず、ただ少年の望むまま傍らにいる。


「あの、お茶どうぞ」
 少女が少年の前の机に暖かい湯気の香るカップをそっと置いた。
 少年は無言で取っ手に指を掛け、カップを傾ける。
 少女は所在無く部屋の隅に立ち、少年は相変わらず何も言わず飲み終わったカップをソーサーに戻した。


 時が、過ぎる。
 この静かな部屋では、時の刻まれる音さえ聞こえそうで――――――


 少女は少年を見つめる。
 自分がどうしたいのか、正直よく分からない。
 故郷に帰りたい。
 けれど、少年を独り残して去る事に抵抗があった。

 何も語らない、何も教えてくれない。
 誰も触【さわ】れない、誰にも触【ふ】れられない。
 孤高の少年。
 孤独の少年。

 そんな少年から、唯一彼が触れる事のできる存在を引き離すなんて――――――
 この想いは、許されない願いなのかも知れない。
 帰りたい。それは本当。
 少年を独りにしたくない。これも本当。
 どうしたら良いのだろう?
 自分は、どうしたいのだろう?


 少年が不意に少女を見つめた。
「来い」
 瞳が、声が。
 少女を捕える。
 少女を求める。
 灯りに誘われる夜虫の様に、無意識に足が動く。
 恐いのに。
 怖いのに。
 その寂寥とした心が垣間見えてしまったから。
 逃れられない。
 離れられない。
 離れたく、ない――――――


 少女は少年に歩み寄る。
 少年は少女を抱き寄せる。


 暖かな身体。
 自分とは違う存在の温もり。
 確かに此処に少女が居るという実感。
 これは、夢幻ではない。
 少女の幼い胸に顔を埋めた。
 少女は驚き、反射的に離れようとして。
 だが、その細い両腕は少年の頭を抱え込み、黒い髪に頬を寄せていた。


ある男女の一場面4

 その女は木陰で幼い子供たちに物語を聞かせていた。
 静かな、心の最も深いところに染み入る声。
 優しい、穏やかな微笑み。

 たおやかな、それでいて大地に確りと根を張った花。

 ずっと聞いていたいと思い。
 自分の為だけに笑って欲しいと願い。
 自分のものにしようと決めた。


 彼女を攫うように側室に迎えた。
 そして、あの日の望みのまま、彼女は短い生涯を自分の傍に居た。
 しかし。
 彼女の心がどこに在ったのか、今でも分からない。
 彼女は私だけを愛してくれていたのだろうか――――――


ある男女の一場面5

 見慣れぬ女が入国したと報告を受けた。

 好奇心から見に行った女は旅の埃で薄汚れた外套を纏い、風避けのフードを目深に被っていた。
 しかし、僅かに垣間見える艶やかな紅唇や、細い顎の形がその美貌を期待させる。
 不意に女が此方を振り向いた。
 フードに半ば隠された双眸が、真っ直ぐに男を射抜く。
 その視線の強さに、男はたじろいだ。
 女は男の視線を捕えたまま、白と褐色の中間色をした細い両腕を上げフードを背中に払い除けた。


 目の覚めるような紅い髪が風にそよぐ。
 はっとするほど透明な紫水晶の瞳が露になる。


 知らず、息を飲む。
 美しい女。
 その造形もさる事ながら、何よりその存在そのものが他を圧倒するほど美しい。
 血の通った美しさ。
 生きている様【さま】こそが魅力的な女。

 気付けば、女の手を取り求婚していた――――――



 ◇◇◇◇◇


 酒のグラスを傾けながら思い出す。
 何故あの日、女の言葉よりも周囲の噂を信じてしまったのだろう。
 女の激しい眼差しを、きっと生涯忘れられない。

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御月雪華

Author:御月雪華
自サイトにて、オリジナルと二次創作の小説を載せています。
蝸牛の歩みよりも鈍い更新速度ですが、興味のある方はどうぞお気軽にお越しください。

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