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兄弟パロ第六段

久しぶりのジョット視点です。
5.Due allodole con cui è connesso il sangue.
 ~彼は猛禽の溜息を聞いたらしい~

 起きたらツナヨシは学校に行った後だった。
 不思議と全く気付くことなく熟睡していたらしい。職業柄、人の気配には敏感で、誰かが傍で動いていれば嫌でも眠りが浅くなるはずなのだが、Gが起こしに来るまでこんこんと眠っていた。珍しいこともあるものだ。
「しかし、良く眠った」
「まったくだ。起こすまで起きねえなんて何年振りだ?」
「さて? 物心ついた頃には普通に暗殺と隣合わせだったからな」
 思い出したところで不快なだけの記憶など思い出さないに限る。肩を竦めて苦笑した俺に、当時から一番傍近くにいたGも苦い顔で顔を顰めた。
「何にせよ、てめえにとって居心地の良い環境なら何よりだ」
「最強のヒットマンの護衛付きだしな」
 悪戯っぽく笑めば、Gも苦笑混じりに首肯した。
 ツナヨシの家庭教師を買って出た黄のアルコバレーノにして最強のヒットマンであるリボーンは、同時にツナヨシの護衛でもあった。ツナヨシはまだ何も知らない。できれば知らせないまま彼の望む平凡で平穏な人生を歩ませてやりたいが、一年ほど前からとうとう彼にまで暗殺の手が伸び始めてしまったらしい。それ故、リボーンは家庭教師と銘打って密かに護衛に来たのだ。ついでとばかりに心身頭脳含めてきっちり鍛えてる辺りが、如何にも完璧主義のリボーンらしい。尤も、幸か不幸かリボーンの教育はツナヨシの『炎』を開花させ、さらに輪をかけて狙われるようになったのは笑えない話だ。元より狙われていたのだから自力で火の粉を払える『力』は有った方が良かったのだろうが、彼が身に付けた『力』はさらなる火の粉を呼び寄せることにもなってしまった。あの子は争いを好まない優しい子なのに、あの子の『炎』は否応無しにあの子を争いに巻き込んでいく―――
 いつかはツナヨシにも全てを話さなければならないだろう。その時、優しいあの子はどんな表情【かお】で俺を見るのだろうか。最悪の事態を想定して事に当たるのはそれを回避する為にも必要な考え方だが、ツナヨシの責める瞳を想像しただけで胸の奥がじくじくと痛みを訴えた。

 約束のファミレスに着くと、店の奥の観葉植物に隠れる席に座った淡い金茶の髪をした青年が、冷めきったコーヒーカップの前で不機嫌そうな雰囲気を隠すことなく此方を睨め付けてきた。
「僕を電話一本で扱き使おうなんて随分良い度胸だね、ジョット」
「すまないな、アラウディ。面倒をかけた」
 不機嫌全開の『雲』の守護者に短く詫びれば、「まったくだよ」と溜息をついて席を立った。
「頼まれた通り、『正規の』手続きはこっちで済ませたよ。それ以外の手続きは自分らでやるんだね。
 あと、君の気に入りそうな物件も一応用意してあるから案内するよ」
「ほう、至れり尽くせりだな」
「厄介事は一気に片付けた方が面倒が少ない」
「世話をかけた」
「そう思うなら行き当たりばったりで行動するの止めたら?」
「はは、すまない。極力気を付ける」
「まったく、君のそれはいつも口先ばかりだ」
「そう言うな。俺は俺の超直感には従うことにしているんだ。
 ところで、コーヒーを頼むなんて珍しいな?」
「こんなところの紅茶よりはマシかと思ったけど、コーヒーも不味かった………」
「それはご愁傷さま。時間のある時にでも美味い紅茶をご馳走してやろう」
「君、紅茶入れるのは得意だよね」
 伝票を俺の手に押し付けたアラウディと打てば響くように言葉をやり取りしつつ出口に歩いていけば、さり気なく伝票を取り上げたGが一足先に会計に立って行った。Gは言葉使いこそ些か粗暴に映るが、気の付くイイ男である。彼の弟やザンザスの『雨』の守護者もそういうタイプの男だった。三人とも世話焼きタイプなのだろう。
 喫茶店を出て、アラウディが呼んだ黒塗りの高級車に乗って場所を移動する。運転手付きとは、この町に住む彼の親戚繋がりだろうか。
「本当に、君じゃなかったら許さないところだ」
「まあ、そう言うな。丁度こっちにいると知っていたし、都合の良いことに今俺の手元にはお前との取引に使えそうなとっときの情報があったからな。そっちにとっても丁度良かっただろう? 今抱えてる案件が全て片付くぞ」
「当然だよ。僕は君の部下じゃないんだから只で動くなんて御免だね」
 後部座席に二人で乗り込み、Gは助手席に。
 此方をチラとも見ぬまま窓枠に肘をついた手で頬を支え窓外を見るともなしに視線を流すアラウディに、彼の姿を横目で捕えつつ内心どうしたものかと思う。受け答えは返ってくるのだが、視線が全く合わない。かなりご立腹のようだ。本当にどうしたものだか―――
「この後も何か仕事が詰まってるのか?」
 手持ちぶたさから問えば、車に乗り込んで初めてチロリと視線が向けられた。
「仕事なんてどれだけ片付けても次から次に湧いてくるけど、取りあえず、僕自身が動かなきゃどうしようもない案件は今のところ無いかな」
「んじゃ、お前も暫くこっちに居たらどうだ? 随分休みを取っていないんだろう? 公休も有休も溜まる一方だと聞いたぞ?」
「………誰から聞くのさ、そんな内輪ネタ」
 良い考えだとばかりに笑顔で提案すれば、アラウディは眉間にくっきりと皺を寄せたしかめっ面で此方を睨んでくる。綺麗な貌はどんな表情をしても綺麗だったが、やはりしかめっ面は勿体ない。茶化すように立てた人差し指を唇に翳し、片目を閉じて笑って見せた。
「それは企業秘密だ。っで? どうする? この町に詳しいなら案内を頼みたいんだが?」
 小首を傾げて問えば、アラウディは遠慮なく存分に呆れた表情【かお】をして「君、馬鹿だろう?」と実に失礼な発言をしてくれた。俺の何処が馬鹿だと言うんだ。結構いろいろ考えてるんだぞ。
「それこそ可愛い弟にでも頼めば良いだろう? 君にとっても丁度いい口実だろうに」
「勿論、『表』の案内はツナヨシにして貰うさ。だが、『裏』の事情なんかはあの子には解るまい」
 まだ何も知らないツナヨシには荷が勝ちすぎている俺の望む『道案内』は、他の誰より情報に通じる目の前の男こそが最も適任だ。アラウディは大いに呆れたと言わんばかりに眼を閉じて背凭れに思い切り寄り掛かり、脚を組んで大げさに肩を竦めた。
「黄のアルコバレーノも随分過保護に育ててるんだね」
「お前の再従兄弟も、な」
 無言で向けられた半眼に、瞳を細めて笑う。我ながら楽しげな様子に、アラウディの半眼がますます剣呑さを帯びる。彼のこういう表情に他人は怯えるらしいけれど、これはこれで物騒で綺麗なんだがな。
「朝から様子を見に来たらしい。随分ご執心なようだな」
「再従兄弟は強い人間が大好物だから、『炎』を宿す君の弟は大層美味しく見えるんだろう」
 顔ごと視線を逸らして「どうでもいいよ」といつもの台詞を口にするアラウディ。そうは言っても、本当にどうでも良かったら、そもそも全く反応なんてしないだろうに、彼も大概素直ではない。己の理想以外どうでもいいと言って憚らない彼だが、それでも気に入って気にかけている人間も少なからずはいるのだ。
「あははっ! そーいうところは良く似ているなっ! お前も俺が強いから興味を持ったんだろう?」
「言ってれば?」
 またしても嫌そうなしかめっ面でそっぽを向いたアラウディを俺がくすくす笑っていると、助手席からGが笑いながら声をかけてきた。
「何だ。アラウディの再従兄弟はジョットの弟を気に入ってんのか?」
「そうらしい」
「何で君が答えるのさ」
「だって本当のことだろう?」
 じとりと睨んでくるアラウディに笑い返し、俺は宣言するように断言した。
「まあ、簡単にあげる気はないけどな。俺だって誠心誠意口説き落とすって決めてるし」
 俺の大切な大切な愛しい愛しいツナヨシを他所の男になどくれてやるものか。
「………てめえ、あんだけ全力で断られたのに全っ然諦める気ねぇだろ?」
 諦める? 笑えない冗談だな。恋の勝負はまだ始まったばかりだ。一度の御断りで諦めて堪るか。
 不敵な笑みを浮かべる俺の隣で、小鳥の名を持つ猛禽が深々と溜息を付いていた。

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Author:御月雪華
自サイトにて、オリジナルと二次創作の小説を載せています。
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